大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(ワ)5314号 判決 1954年11月01日

東京都澁谷區代々木初台五百九十八番地

原告

土屋賀英

右訴訟代理人弁護士

田中正司

東京都中央區銀座東二丁目六番地

被告

三昌炭礦株式会社

右代表者代表取締役

内田愈

右訴訟代理人弁護士

和田英一

右当事者間の昭和二九年(ワ)第五三一四号株主総会決議無効確認請求事件につき、当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

被告の昭和二十八年十二月十五日の定時株主総会における同年十月三十一日現在の貸借対照表及び財産目録、並びに同年十月八日から同月三十一日までの営業報告書、損益計算書及び損失金処分案を承認する旨の決議は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、被告は石炭及び鉱石の採掘、販売を目的とする資本金一千万円の株式会社であり、原告はその株式一千株の株主である。

二、被告は昭和二十八年十二月十五日、その本店で第一回定時株主総会を開催し、その総会において主文第一項記載の財産目録及び貸借対照表、並びに営業報告書、損益計算書及び損失金処分案を承認する旨の決議をした。

三、しかるに、被告の前記財産目録に記載する営業用固定資産のうち別紙目録記載の物件(金額合計十七万六千四百五十五円)を除いた物件は、被告が昭和二十八年十月十五日に梶野徹から買い受けたものであつてその取得価格は合計九百九十五万円であるにもかかわらず、前記総会において承認された計算書類中財産目録に記載された評価額は、右取得価格を百九万七千六百八十円超過する千百四万七千六百八十円となつている。

四、これは強行法規である商法第二百八十五条に違反し、したがつてこの計算書類を承認した前記決議は無効であるからその確認を求める。

旨述べ、

立証として、甲第一号証の一ないし三第二号証、第三号証の一ないし四、第四ないし第六号証を提出した。

被告は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、原告の主張する一、二の事実は認める。

三の事実は否認する。

四の主張は争う。

と述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

原告の主張する一、二の事実は当事者間に争のないところであり、成立に争のない甲第一号証の一ないし三、第二号証第三号証の一ないし四の各記載によれば同三の事実を認めることができる。

商法第二百八十五条は、株式会社の物的会社たる性質に鑑み、会社財産が債権者に対する唯一の担保であるところから、営業用の固定財産等の価額の騰貴した場合に、これを高く評価して評価益を計上し、実質的には利益がないのにかかわらず利益配当をして、会社の財政的基礎を悪化せしめるような弊害を予防するための規定である。従つて、これに反する財産の価額を附した財産目録を承認した右決議は違法のものとして無効である。よつて、その無効であることの確認を求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 岡部行男

裁判官 太田夏生

裁判官 宮本聖司

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例